今までの常識を破り、執念とも言うべき「郵政民営化」の信念を貫いた、小泉さんの大勝利でした。
日本の政治を変えるには、まずその政権党である、自民党の体質を改革しなければならないと、誰もが考えましたが、それをこれほどまでに実行した人は他にはいません。
自民党は小泉さんが総理になるまでは長落傾向にあり、選挙の度ごとに得票を減らしてきました。それは、政策よりもむしろ、派閥や企業献金にまつわる「金と政治」の不祥事が後を絶たなかったからです。
一口で言えば、「自民党の体質」に国民がへきへきとしていたのです。
小泉さんは、この自民党の体質を変え、長老政治・派閥政治を排除して、清潔な政治・開かれたオープンな政治・わかり易い政治により、国民の人気を一心に集めてきました。
小泉さんは日本では珍しく、「目的追求型」の首相ではないかと思います。
今までは総理になることが目的で、何のために総理になるのかは二の次で、良くわかりませんでした。
総理になるには自民党国会議員の多くの支持を得なければなりませんから、派閥の長となって、出来る限り政敵をつくらず、他派閥からも協力してもらう「合意形成型」の総理を生み出してきました。
このようにバブル崩壊前は、外交も内政も「みんなで渡ればこわくない」式でやってきたのです。
そして、経済成長の右肩上がりの時代には、これでなんとかうまくいっていました。
それは、地上では天候不順の風雨にさらされても、地面の中は微動だにしないというように、政治が多少混乱していても、行政(官僚)がしっかりしていれば、なんとか国は運営されてきたのです。
各省庁に優秀なキャリアと言われた官僚が政策の立案をし、上位下達で地方に流してきたからです。
ところが、バブル経済が崩壊し、右肩上がりの時代が終焉すると、今までの惰性で政策を遂行していくことは許されなくなりました。
一方、少子高齢化現象はいよいよ激しくなり、政治も経済も行き詰まり、社会全体のしくみを変革せざるを得なくなりました。
それが、年金であり、医療であり、その根っこにあるものは財政危機で、700兆円とも800兆円とも言われている借金地獄からの脱却です。
これは、誰が悪いとか、誰の責任とかの問題ではなく、時代のニーズであり、政治家はもとより国民全体の意識改革が必要なのです。
とりわけ、このような現状を生み出したのは政治の責任であり、特に政権党であった自民党の責任は重大です。
民主党がいくら政権交代を叫んでも、まだそれだけの能力や力量が不足していることを国民の大多数が見抜いていたから、もう一度自民党に託そう、いや、小泉さんにやってもらおう、もっと言えば、「今、小泉さんしかいない」というのが実態ではないでしょうか。
この意味で、自民党は勝利したものの、大きな宿題を背負うことになったのです。
なぜなら、戦後60年かけて構築してきた現在のシステムを、1年や2年で変えることは困難ですから、短期・中期・長期の改革案を国民の前に明らかにすべきではないでしょうか。
この時の最大の問題は、小泉さんの総理・総裁の任期があと1年であり、1年では到底仕上げることは出来ないので、道筋をしっかりつけるということ、それを誰が引き継ぐかが最大の課題なのです。
今回は冒頭に述べたように、自民党が勝ったというよりも、小泉さんが勝ったのですから、今回の大勝利は一時的な現象で、ポスト小泉によっては逆戻りする可能性もなしとしません。
むしろ、大勝利した自民党はいよいよ正念場で、党の存亡をかけて大改革に邁進しなかった場合は、今度は完全に国民からイエローカードならぬレッドカードを突きつけられることを覚悟しなくてはなりません。
となると、今回の勝利は予告編のようなもので、この任期中に改革の実績を高く掲げて、次の総選挙で国民の信頼を勝ち得た時、本当の勝利と言えるのではないでしょうか。
秋 鹿 博